この記事は2016年著作の「不動産投資の嘘」をWEB記事化したものです。
第10章
嘘を見抜いた投資家がさらに資産を築くための戦略
ここまで不動産業界の嘘について述べてきましたが、本章では不動産投資を勝ち抜いていくための戦略を解説します。
投資の基本は「FIRE(ファイヤー)」
投資家は投資の基本は「FIRE(ファイヤー)」であることを頭に入れてください。ファイヤーというのは、次のような内容となっています。
F……ファイナンス。金融商品など
I……インシュア。保険
RE……リアルエステート。不動産
ファイナンスは金融商品です。海外の投資信託など金融商品を指します。
インシュアは保険です。保険でのリスクヘッジに加えて、節税ができますし、海外投資の中にも保険商品は含まれてきます。
最後の不動産では、不動産投資で売買されるリアルエステートもありますし、投資信託の中には不動産で運用しているものもあります。メリットも多い不動産投資ですが、デメリットとして安定性に欠ける部分もあります。それでも、ポートフォリオに組み込むべき理由がいくつかあります。不動産はインフレ時にヘッジになること。不動産は株や債券とは、景気循環が異なります。
ファイヤーは、私がCCIM®の勉強をしているときに、外国人の講師から教わった言葉です。多くの不動産投資家は、不動産しか見ていない場合が多いのですが、不動産だけを知っていればいいということでありません。投資家が成功するためには、この三つをマスターする必要があります。
投資をする主な理由は、投資には投入した金額以上に収入を得られる可能性があるからです。その収入とは、家賃をはじめ、利子、配当、あるいは投資商品を売却したときに得られる利益からかもしれません。
ほとんどの投資は、この定義にあったもので、利子は固定もあれば変動もあります。また高いもの低いもの、安定性のある投資からハイリスクハイターンの投資もあるのです。投資は、投資家の目標によって、魅力的に見えたり、その反対に見えたりします。投資家にとって投資選びのポイントは次の通りです。
投資選びのポイント
・ 換金性……換金性とは、元金を失うことなしに、資産を現金に換え能力のこと。不動産は売るのにかかる時間と、売却時の市場価値が予測できないという理由で、換金性が低いと見なされている。
・ 市場性……市場性とは値段にかかわらず、資金を現金に換える能力のこと。
・ レバレッジ……レバレッジとは投資の資金の供給の一部として、融資を使うこと。不動産売買は他の投資に比べて、高くレバレッジをかけやすいという側面があります。
・ 管理……管理とは、投資をモニターするコストです。不動産管理でいえば、全体的な物件の運営と建物のメンテナンスが含まれます。
・ 税金の影響……税金は投資の収益、損失に影響を与えます。
・ 収益率……収益率は利回りを指します。投資期間中に、投資した金額に対して何%の収益が生まれるのかということです。なお収益率は税引き前と税引き後で見積もることが可能です。
・ リスク……リスクとは、投資の元金や潜在的収入を失う可能性のことです。
次に投資の特性を解説します。1~5のスケールで、1がもっとも望ましい投資、5がもっとも望ましくない投資です。それぞれの特性を理解しましょう。
出口を見ない不動産投資はリスクでしかない
私のイメージとしては、今は金融機関が融資に積極的な時期ということもあり、レバレッジを効かせた不動産投資をはじめやすい環境が整っています。物件価格が高騰しているとはいえ、銀行金利も低いですし、個人でやっても儲かるチャンスはあるのです。
そこで出口を見ながら、日本の不動産投資で一気に資産形成を行い、その資産で日本ではできない高利回りのファンドやヘッジファンドを海外で運用していく。そんな投資手法も選択肢にあります。ポートフォリオで複数の投資を行い、海外で運用しながら、また日
本の不動産を続けていくのもいいと思います。
ただし、不動産投資に関していえば、常に「利益を確定する」という出口を見ながらの運用でなければいけません。
家賃による安定収入こだわらない方が賢明です。家賃=不労所得だから、老後まで物件を持ち続けるという考え方はやめて、出口を見据えながら資産を構築する手段だと考えましょう。
不動産投資で資産をつくり、海外で投資するというのが私自身の投資スタイルですが、それが正解かどうかは別として、何か一つの投資先にこだわるのはリスクが高いのは事実です。
単純に考えて、日本は人口が減っていきます。住む需要が減る中で、建物はだんだん古くなって壊れていきます。それでも新しいアパートやマンションがどんどん建ちます。
需要が増えないのに、新しいものが出てくるという中で、同じものを継続して持つというのは、それだけで一つのリスクなのです。ローンがなくなったとしても、修繕が必要な上に、結局壊すことにもお金がかかるわけです。やはり持ち続けるこのリスクというのは、常につきまとうのです。
ここで、「不動産投資のリスクとは何か」を改めて考えてみたいと思います。リスクは次のように定義できます。
リスクの定義
・利回りのばらつきに影響を与える出来事や状況
・実際の利回りが期待される利回りと異なる度合い
大切なことは、利回りは将来上がることも下がることも予測されますが、それ自体はリスクではありません。リスクとは、それが期待通りにいかないことを意味しています。
リスク分析では、リスクの潜在的な要因を検討して、その重要性と、その他の利回りに影響を与えるものとの関係を分析していきます。
リスクの中には、ほかに転嫁できるものがあります。例えば、自然災害リスクをヘッジするために保険に加入するといったようなことです。また、一つの投資に影響を与えるような経済的出来事は、他の投資には影響を与えないかもしれません。そのため、ポートフォリオの中で、複数の投資を持つことによって多様化できます。
転嫁したり多様化したりした後にまだ残るリスクについては、そのリスクに見合った利回りが期待できなければならないという意味で値段がつきます。投資家はリスクを負うからには、増加収益(リスク・プレミアム)を期待するのです。
つまり、ローリスク・ローリターン、ハイリスク・ハイリターンのように、リスクが少ない代わりに利益も少ない、逆にリスクが大きくなれば、その分だけ利益も大きくなる可能性があるということです。そういった中では不動産投資は、ミドルリスク・ミドルリター
ンに位置付けられています。
不動産市場は不完全なマーケット
不動産投資の市場は不完全なものです。不完全であるということは不安定であるということで、大きな利益を手にすることができる可能性がある反面、思わぬ損失が発生する可能性もあるのです。
市場は需要と供給の規則に従って機能します。不動産市場において供給というのは、売りに出されていたり、貸しに出されていたりしている物件の総数をいいます。需要というのは、特定の値段で「買いたい」または「借りたい」住宅の総数あるいはスペースの総面
積を指します。
賃貸物件で説明すれば、「貸したい物件の数」と「借りたい人の数」のバランスがとれているのか。そこが崩れてしまえば、「貸したいのに借りてもらえない=空室が続く」ということも起こり得るのです。事実、供給過多で空室率の高い地域は、日本のあちこちに
あります。
市場価格とは、特定の市場で売買されるときの値段です。市場の均衡の原則があり、これは需要と供給の曲線が交わる点が市場の均衡点となります。
市場の均衡点以上に価格が上がると、需要の低下が起こり、空室物件が増えてきます。また価格の抵抗によって空室率が上がります。市場の均衡点以下に価格が下がると、賃貸物件に対する競争、市場に入る消費者の増加、場所を提供する投資家の減少などによって、空室率が下がります。
物件を供給するためにかかった費用(購入費用、リフォーム費用)に関係なく、市場が物件の売却額や家賃が設定されます。物件のオーナーは市場がその物件に支払う価格と、利益を上げるためにとるべき価格とを検討しなければなりません。
このプロセスによって、完全な市場の均衡にゆがみが生じるのです。なお市場の均衡のゆがみは、価格の交渉、価格決定、市場の複雑性によって変わります。
不動産投資の流れ
~戦略から売却まで~
ここで本書のおさらいとして、不動産投資を行うにあたって知っておくべき流れをまとめましょう。戦略から購入・運用・売却そして再投資と一連の流れを簡単に振り返っていきます。より詳しく確認されたい方は、参照すべき章を記載しましたので、もう一度読み返して理解を深めてください。
① 戦略(第1章参照)
不動産投資を行うためには、将来的にどれくらいのキャッシュフローを得たいのか、どれくらいの投資規模を目指すのか、戦略を立てることが不可欠です。法人でいくのか、個人なのか、個人と法人を組み合わせていくのかを見ます。個人でスタートした場合であっても、しっかり戦略を立てれば最終的に法人に切り替えていくことは可能です。
大事なのは融資であり、どの金融機関がどのように物件を評価するのか、物件ありきではなく、融資の優先順位を高めておくことが目標達成に欠かせません。
② 購入(第3章参照)
購入では、できるだけ多くの種別の物件と、ある程度エリアをバラして所有することがリスクヘッジになりますが、融資の側面からいえば、「融資の出やすい立地」「融資の出やすい建物」が各金融機関にあります。そのポイントを押さえることが前提となります。購入にあたっては、その地域の需要と供給といったマーケットの分析を行うこと、また建物の状態(リフォームが必要なのか、必要であればいくらなのか)について、しっかり見極めることが肝要です。そこの部分を怠ってしまえば、いくら資金調達がうまくいっても賃貸経営を行うことは難しくなります。
また、購入時には投資指標を理解して、きっちりと試算を行います。第3章で詳しく紹介していますが、購入時点において売却までを見据えてシミュレーションすることが不可欠です。
③ 運用(第5章参照)
その後の管理運営において主となるのは、空室を減らしてなるべく高稼働させることです。そのためにも、賃貸経営のパートナーとなる管理会社選びは慎重に行います。その他、再投資による資本改善も行います。リフォームという再投資によって、どれだけの収益が
上がるのか、出口を見据えたときに費用対効果があるのかを検証します。併せて節税や保険の活用もまた円滑に運用するために欠かせないことです。
④ 売却(第6章参照)
最後は、売却による利益確定です。不動産投資は売って初めて投資の成果が出るものです。出口を決める上では、「次の購入者がローンを組めるか」ということがキーとなります。そこで重要な役割を果たすのは耐用年数で、大手都市銀行はこれを見るケースが多いです。そして、10年後の売却を想定するのであれば、あらかじめ試算を行っておき、7年目から13年目で市況を見ながら売却の判断を行いましょう。6年の期間があれば景気の波もある程度変わっているので、想定通りに行く確率も高くなります。
また、出口にはオーナーチェンジでの売却以外の方法もあります。長期間保有して最終的に建物を解体して土地として売却する、リノベーションを行う、建て直しを行うといった種類があります。道は一つではありません。あらゆる要素を勘案して出口戦略を決めましょう。
たとえ所有する場合でも、漫然と持ち続けるのではなく、常に市場価値を意識して「売ったらいくらになるのか」は把握しておいた方がいいでしょう。そのためには、IRRを理解することが重要です。IRRとは、「内部収益率」を意味し、投資した全ての現金が生
んだ収益の率を指します。
⑤ 再投資
最後は再投資です。不動産投資において購入する不動産が1棟だけというケースは珍しく、人にもよりますが、目標とする資産をつくるためには再投資を行います。購入から売買を繰り返していくことにより、より資産が増えていくということです。不動産投資の最大の魅力はハイレバレッジをかけられることです。サラリーマン投資家であっても、有利な融資が受けられる環境が整った現状では、不動産投資を始める絶好のチャンスといえます。
しかし、急激に買い手が増えたこともあり、現在は物件価格が高騰しているのも事実です。また、個人属性だけで融資がつくケースでは、投資に値しない物件を購入してしまう恐れもあります。
これまで紹介してきた不動産投資を取り巻く数々の嘘は全て事実であり、しっかり知識を持っていなければ、大きく損をしてしまうような物件を購入してしまうこともあります。「無知は罪なり、知は空虚なり、英知持つもの英雄なり」と言ったのは、かの有名な哲学
者ソクラテスです。
知らなかったことで損をしたり失敗するというのは事実です。しかし、いたずらに知識だけを詰め込んでも頭でっかちになるだけで、不動産投資でもよく見かけますが「いつまでも理想の物件を追い求める、買えない人」になってしまいます。
結局のところ、大事なのは、「知識を得る努力と、その知識を活用する努力の両方が必要である」ということなのです。
以上で2016年に刊行した「不動産投資の嘘」の連載は終了です。