賃貸経営の嘘
「大手の管理会社に任せれば安心」は嘘
賃貸経営の嘘
前提として、不動産投資家の皆さんに知っていただきたいのは、「管理会社の目標とオーナーの目標は違う」ということです。
オーナーの目標は資産を増やすことですから、家賃を維持しながら空室を埋めて収益をあげたいと考えます。対して、管理会社は入居率をあげることを目標にしています。家賃が下がっていても関係ありません。とにかく入居が付けばいいという考え方です。このように、両者の間には根本的なズレがあるのです。
管理会社は、本来であればオーナーの資産を最大化するため方法を考えなくてはいけない立場です。
管理会社の通常業務というのは、入金管理、客付け、クレーム対応、入退去の立会い、修繕の手配などがあげられます。例えば、修繕費が発生する故障や不具合が起こった場合、ほとんどの管理会社が「〇〇が壊れました」という報告をオーナーにして、「そのお金を出してください」と請求するだけです。
入居促進のために行うリフォームでは、「入居者が入らないのでリフォームしましょう」と提案するのはいいのですが、本来であれば、リフォームに対する費用対効果を考えた上で提案すべきなのです。
リフォームは、再投資=資本改善にあたります。出口を見て考えた場合、「リフォームにかけた金額によって、家賃がどのくらい上がり、収益がどのぐらい上がるのか」というところまで、しっかり計算をして、「その修繕・リフォームをするのか、それともしないのか」判断します。
【リフォームによる投資価値の判断例】
賃料:5万円
戸数:20戸
購入価格:1億2000万円
年間収入 1200万円 (5万円×20戸×12カ月)
表面利回り 10% (1200万円÷1億2000万円)
→5年後に利回り11%で売却予定
売却価格 1億910万円 (1200万円÷11%)
この物件をリフォーム代200万円をかけて、2000円/月の賃料UPを実施すると?
年間収入 1248万円 (5.2万円×20戸×12カ月)
利回り11%設定で売却すると
売却価格 1億1345万円 (1248万円÷11%)
結果、リフォームによって435万円の売却価格増加
→リフォーム代を引いても235万円の利益増
このように考えてやっていくのが投資です。管理会社さんがこのような提案をできるかというと、できていないのが現状です。
資本改善とは
物件に対して再投資を行い、収益を上げることを「資本改善」といいます。資本改善にあたっては、再投資(リフォーム等)に対して、費用対効果はどれくらいあるのかをしっかり計算する必要があります。
費用対効果が高いのは既存顧客へのサービス
リフォームによっては、1円も費用対効果がないケースもあります。
最近の入居者はセキュリティーを重視する傾向にあり、古い物件であっても「モニター付きインターフォンを付けたらいい」と思われます。
このように築古物件に対して、管理会社が「モニター付きインターフォンくらいは付けた方がいいですよ」という提案があった場合、実際のところその工事をしたとしても、家賃が上がることは期待できません。あって当然な設備は、それがあったとしても家賃には影響しないのです。
賃貸経営というのは単純な話ではありません。お金をかけて新規顧客を獲得することに比べて、既存客にサービス提供した方が、コストが低く済むという側面があります。
もし、モニター付きインターフォンを付けなかったことによって、入居者が退去を決めたとします。退去されてしまえば、家賃収入は途絶えますし、原状回復費用といった修繕費用がかかります。たとえ数万円出したとしても退去されない方がいいのです。
また、改めて入居を募集するということになれば、広告料をかける必要があります。特に売却を念頭におくのであれば、常にお客さんで満杯にしておくというのが非常に大事なことなのです。それらを計算すれば、インターフォンを付けて、入居者に快適な住環境を提供した方がいい可能性があります。
それをわかっているオーナーは少ないです。こういったことを「テナントリテンション」といいますが、モニター付きインターフォンはあくまで一例であって、既存客を大切にするために何をするのが効果的かということは、その物件によって、また入居者によって変わるものです。
私はアンケートで直接聞くのが一番いいと思います。入居者にアンケートを配って、希望する設備や改善点を聞いていく。もちろんできる、できないということはあると思いますが、予算の範囲内で、入居者が希望しているものをどんどん付けてあげるというのも大切です。
費用対効果についての検証も必要ですが、既存客を大事にすることでコストカットできる可能性も高いのです。
同じケースで、単純に空室を埋めたいという話であれば、モニター付きインターフォンを導入する費用を計算して、その分だけ家賃を下げて募集した方が埋まるかもしれません。
ただし売却を考えているのであれば、モニター付きインターフォンではなくて、もっと家賃を上げることができる方法を考えるべきです。
その方法はリフォームとは限らず、「ペット可にする」「外国人可とする」といった入居条件緩和だったり、入居時の初期費用をオーナーが負担する入居者向けのキャンペーンを行うことかもしれません。
管理会社はそこまで考えて、オーナーに提案するのが役割だと認識していますが、それをできる会社は多くありません。そこまでするためには、それこそCPM®の資格取得など、不動産投資のプロとしての知識を持っている必要があるのです。
テナントリテンションを行う意味
新規顧客を得るためのコスト(原状回復費、広告費)を考えた場合、既存顧客を大切にする方が費用対効果は高く、収益(家賃収入)が安定します。
その管理会社は「最適」なのか
一口に管理会社といっても、不動産賃貸管理だけを行う会社、賃貸仲介と管理をセットにしている会社、売買仲介、賃貸仲介、管理をトータルで行う会社、建設会社の賃貸部門といったような位置付けの会社もあります。
会社の成り立ちも、テレビCMを流しているような大手チェーンから、地元では有名な不動産会社、逆におじいさんが1人で営んでいるような昔ながらの不動産屋もあります。
その他に地域性もあり、首都圏をはじめ主要都市には数えきれないくらい管理会社がありますが、小さな街ともなれば、1社独占状態になっているケースも珍しくありません。そうなれば、管理会社を選ぶこともできないのです。大手チェーンの方が客付けが強いという傾向にあるように思います。
また、規模の大きい会社は経営的に安定感がありますが、一つの物件に対して、客付担当者、管理担当者、修繕担当者と、部門が別れてしまい対応がわずらわしい……といったケースもあります。
例えば101号室が空いたとしたら、客付担当から「101号室何日に空きました。入居条件はどうしましょう」と連絡が入った同じ日に、修繕担当から「101号室の退去において、〇〇を修繕する必要があります」と連絡が入るといったことが起こります。部門化されているため、社内での情報が共有されておらず、「それは、おたくの会社の内部ですり合わせてくれ」というようなことまで、オーナーに何度も何度も電話がくるといった話を聞いたことがあります。
会社内できちんと仕組みができていればそういうことはないと思うのですが、大きい会社ですと、そういうことが起こりやすい印象を受けます。やはり株式上場しているような会社ともなれば、利益を追求していきますので、管理が弱い状況に陥ってしまうのかもしれません。
前提として、大手だから任せれば安心だというのは、完全な思い込みです。また大手の会社でも、直営の場合もあれば、フランチャイズの場合もあり、不動産会社が加盟しているケースでは、名前は大手でも、実は地元の不動産会社であったりします。
地場のしっかりした不動産会社というのは信頼できるのですが、大手の信用でお任せしたのに、地元の小さな会社だったということで困惑するケースもあります。ご存じない投資家も多いのですが、エイブル、アパマンショップ、ピタットハウスなど、ほとんどの大手ではフランチャイズを行っています。直営店のみとなると、ミニミニぐらいです。
これは、一般にはあまり知られていません。おそらく入居者の立場でも同じでしょう。大きい会社だからと無条件に看板が信頼に値するかといえば、それは違うのです。逆に古くて小さい会社だからといって良くないということもなく、地場で長く営業している会社ならではの強みがあります。ちなみに当社では、管理コンサルティングを行っています。売った物件の管理はしていないため、購入していただいたオーナーの物件の近くの管理会社複数にあたって、管理料はいくらなのか、客付けはどうなのかとか、リサーチして紹介をしています。
管理費はコストです。管理をしっかりしてくれる上で、管理費は安ければ安いほど良いと考えています。客付けに強ければさらにいいのですが、全てを兼ね備えた会社はそうそうありません。
きちんと管理業務ができる会社は客付けのパワーが弱いケースが多いので、客付けが強い会社と、管理が強い会社を組み合わせることもします。つまり、目指すところは「いいとこ取り」なのです。
客付けに強い会社に客付けを頼んで、管理に強い会社に管理だけを委託したいということで、2社間で利益が相反する部分があります。そのため、もちろん断られるケースもあります。ただし、管理会社からすれば、基本的には管理を取りたいと思っているので、交渉している中では、ある程度悪い条件でも飲んでくれるケースが多いように感じます。
管理コンサルティングではその交渉やセッティングを行っています。当社の主な業務は売買仲介ですが、売って終わりではありません。投資家が購入した物件に対して、その後の管理運営までつなげるのが仲介業者の役目だと認識しています。
書籍によっては、投資家自らが管理会社との交渉をしたり、客付けするための営業などを提案するものもありますが、実際のところ専業大家でなければ難しいと思います。また、業者間だからこそ通じる部分もあり、オーナーの立場からの折衝は簡単にはいきません。