NPV(正味現在価値)を使った不動産投資指標
NPV(正味現在価値)とは、将来発生する収支に一定の割引率を設けることで、現在の価値と将来の価値を等しいものとして投資の可否を判断する指標です。
今回はNPVとはどういう指標か、それを不動産投資に適用するとどうかをまとめました。
(あくまで著者の考えであり、NPVを否定するものではありません。割引率に根拠を持って設定できる場合には有効となる場合もあります。)
NPV(正味現在価値)とは?
例えば、「今あなたに100万円あげます!」と「5年後にあなたに100万円あげます!」どっちがいいですか?
私なら今すぐ100万円欲しいです。
なぜなら今100万円あればそれを5年運用すれば100万円以上に増やせるからです。
ということは逆に、「5年後の100万円は今の100万円より価値が低い」と考えることができます。
この「どのくらい価値が低いか」を数字で表したものを「複利現価率」といいます。
※ 複利現価率 = 1÷(1+割引率)^年
※ 割引率は自由に設定できる。
たとえば、あなたが今手に入れた100万円を毎年5%で運用できるとしましよう。
すると5年後には127万円になります。(100万円×1.05^5=127.6281…)
つまりあなたにとっては「今の100万円=5年後の127万円」と言うことができます。
5年後にどのくらい価値が低くなっているかを示す「複利現価率」は 100万円÷127万円×100=78% となります。
したがって、「あなたにとって5年後のお金は、今のお金の78%分の価値しかない」ということができます。
将来のお金を今の価値に換算すること、これが正味現在価値の考え方です。
NPVを用いたワンルームマンション投資
このように将来の価値を今の価値に割引することで、「今、この投資をしていいのか」という判断材料になります。
例えば、NPVでワンルームマンション投資を判断するとどうでしょうか?
条件
物件価格 2000万円
取得費用 160万円 (物件価格×8%)
賃料収入 140万円 (利回り7%)
営業支出 14万円 (収入の10%と仮定)
正味営業収入(NOI) 126万円
10年後の売却価格 1555万円(利回り9%で割った)
これを将来に渡って収入の価値が等しいと考えると次の表のようになります。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 売却 | 総収入 | 投資結果 |
126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 1555 | 2815 | 655 |
※投資結果=総収入-(物件価格+取得費用)
投資結果>0なのでこの投資は承認されますね。
ではこれをNPVを用いて割引率5%で計算するとどうなるでしょうか。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 売却 | 総収入 | 投資結果 |
126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 1555 | 2815 | 655 |
120 | 114 | 109 | 104 | 99 | 94 | 90 | 85 | 81 | 77 | 955 | 1928 | -232 |
(万円)
NPVで現在価値に割り引いた額を下に記載しました。
すると投資結果が-232万円になってしまいました。
NPV<0のため、この投資は承認されません。
このようにNPVを用いると今この投資を行うべきか判断することができます。
しかしNPVには大きな問題点があります・・・。
NPVはあてにならない?
私はNPVは不動産投資においてあまりあてにならないと思います。
将来の価値を現在の価値に割り引くという考え方は非常に重要で、冒頭でも述べた通り「今の100万円≠将来の100万円」であることは考慮すべきです。
しかし、この割引率というのが厄介で、「何%に設定すれば正解」というのがありません。
先ほどの表の通り、考慮しなければプラスだが、割引率5%で設定すれば大きくマイナスになるというのが往々にしてあります。
例えば割引率を2%に設定すると、NPV=+247万円であり、投資は承認されます。
つまり割引率次第で良くも悪くも見せることができてしまいます。
また、不動産投資のリスクはNPVの割引率の設定よりも、空室リスクや修繕費の見込みのほうがよっぽど重大です。
さらに、将来の支出についても現在価値に割り引くことになりますが、実際に支払うのは現在価値の額に近くなります。
投資指標計算では将来価値を割り引くのに、実際のCFシミュレーションでは現価で考える、といったねじれが生じることになります。
これらの点で私はNPVはあまりあてにならないと感じています。
だからというわけではありませんが、弊社の精密なシミュレーションにはNPVが入っていません。
現在価値でもリスクシミュレーションをしっかり行えば、十分に有意な判断を下すことができます。
では「今投資したらどうなるか」という判断では、ダイムラー・コーポレーションではIRR(内部収益率)を参考にします。
IRRは投資結果から割引率を逆に求めることができます。
冒頭でいう、「100万円を5%で運用したら127万円になる」の「5%」を求める計算式です。
例えば、IRR5%の商品があったとして、あなたが今の100万円を毎年5%以上で運用する自信があるならこの商品は買うべきではありません。
逆にあなたが毎年5%はきついと思うならこの商品は買うべきでしょう。
「将来の価値が今ならいくらか」に注目するよりも、「あなたは毎年何%以上で運用するつもりか」を重視したいということです。
まとめ
- NPV(正味現在価値)=現在価値×複利現価率
- 複利現価率=1÷(1+割引率)^年
- 割引率 自由に設定できる。だから使いにくい。
今の100万円≠5年後の100万円 という考え方は重要
でも不動産投資の判断に向いてるかといえば微妙だと思います。
具体的に何をもって割引率を設定するのかが明確でない人は、IRRを使った方が投資判断を下しやすいでしょう。